みなさん思い出してください。小学校の頃、登校中に旗を持ったおばちゃんがいて、横断歩道を渡る時に安全に渡れるよう優しく誘導してくれてたりしませんでしたか。そう。いたでしょう。あれ。あの旗もち交通安全おばちゃん。俺も41歳になってとうとうあの人になる機会が巡ってきました。もちろんおばちゃんそのものになると言うわけではないので性別はそのまま、なのでちんこは取りません。ジェンダー差別は良くありませんからね。ちんこのあるなしで交通安全を守れる守れないを決めてはなりません。ならぬものはならぬものなり。
いや、娘が通う小学校の保護者間の持ち回りでやっている交通安全の見守り担当が回ってきたってだけなんですけどね。カミさんに頼まれてやることになり、平日朝という忙しいタイミングではありますけど実際ちょっと楽しみではあったんですよね。あの旗を持つこと自体も、地域の知らない小学生たちとちょっとしたコミュニケーションをとることも、小さいながらも地域社会に貢献できるという充実感も込みで、嫌な気一つせずワクワクして待っていたわけです。そしていざ当日。朝になってカミさんに聞いた衝撃の事実。
「旗がない」
え？うそ？マジで？旗もち交通安全おじさんなのに旗がないの？それ意味あんの？いやお前あれよ。よく考えてみいよ。ルークスカイウォーカーいるじゃん。あいつがライトセーバー持ってなかったらどうなるよ！！ただの面白い服きたぼんぼんじゃねえか！！オビワンに至っては単なる浮浪者！！ダースベイダーは…あんま関係ないか！！いや、アレよ！ライトセーバーがあるからこそジェダイなのであって、なければみんな浮浪者やおじさんや変なKISSみたいなクレイジーペイントした奴らになるだろうがい！！ああん？？重要なのはライトセーバー！！！わかる？わかってる？交通安全おじさんは旗があってこその交通安全おじさんなのであって、俺が旗持ってなかったら交通安全おじさんじゃなくて旗なし不審おじさん（スメル付き）になるだろうが！！！そこんとこよく考えい！！
と、カミさんに言えないので黙ってスムーズに通学路の担当場所である近所の交差点につきました。かろうじで腕章があったので、それをつけて押しボタン式信号機の前に立ちました。朝の7時50分。これから約40分ほどの間、小学生たちがきたら押しボタンを押して信号機を青にし、笑顔で「おはようございま〜す！みんな元気かなぁ？」とかいって爽やかなコミュニケーションを交わし、朝の爽やかなひと時と安全な登校を提供するナイスガイ（スメル付き）になるのです。スメルはいらんか。いやいらんの一言で無くなるなら苦労はしないけども。夏場は特に。
で、ぼちぼち来るわけですよ小学生たちが。信号機のボタンを押して笑顔で出迎えようとすると、なんかおかしい。目線が合わない。ていうか2メートル以上みんな近寄ってこない。おはよう、と声をかけても「…ょす…」とか聞こえない程度の微かな声でギリ返す感じ。おかしい。何かがおかしい。ですが察しの良い俺はすぐ気づくわけですよ。ははぁ〜ん。これはあれか？コロナ禍によるソーシャルディスタンスってやつか？だがそれでも変だ！物理的なディスタンスは2メートルだけど心理的なディスタンスは21キロ近く離れてる気がするぞ！！エゲつない理由で離婚した夫婦間の心理的距離くらいあるぞ！！おい！！小学生！！俺がお前に何を！何をしたっていうんだ！！DVどころか経済的DVもしとらんぞ！！そんなうがった、まるで不審者を見るような目で！！見るんじゃないっていうかそうか！！なるほど！！！不審者と言われたらまあ！！無理もないな！！旗持ってないしな！！
不審者みたいなのに近寄らず、口も聞かない。
最近の小学生たちは防犯意識が高くて素晴らしい。
俺が不審者みたいなのに見えるのはしょうがない。旗がないから。
ライトセーバーがないオビワンが戦場に来てもアレでしょ。
新宿大ガード下のおじさんと見分けつかないっしょ。
そういうことだから。
旗がないとそういうもんだから。
風貌が地域社会に溶け込めないわけじゃないから。
旗のせいだから。
